神戸鉄人伝(こうべくろがねびとでん) 第11回

剪画・文
とみさわかよの

公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構
理事長(前兵庫県知事)
貝原 俊民さん

阪神・淡路大震災時の兵庫県知事として、今も安全・防災に取り組み続ける貝原さん。「創造的復興」をキーワードに、21世紀に通用する都市の姿を提唱しておられます。尊い犠牲を払った被災地が発信すべきは何なのか、おうかがいしました。

─まず、被災地でもある阪神間エリアを、どのような場所とお考えでしょうか。

20世紀になってから阪神地域は、国際港と主要幹線鉄道の結節点となり、造船業を中心に日本で初めて本格的な近代産業がおこりました。日本の高度経済成長の時期には、神戸港はアメリカのニューヨーク港、ヨーロッパのロッテルダム港とならぶ世界三大港として日本経済を支えてきました。高度成長期の後には、神戸市はファッション都市、コンベンション都市といった文化や人を中心とした交流に基軸を移し、発展を続けました。このように阪神間は、日本の近代化を先導してきた地域と言えるでしょうね。

─そんな20世紀の繁栄の象徴とも言える都市文明を、あの地震が打ち砕きました。

都市は科学技術の力によって造られた人工的な生活空間です。そこでは自由で快適な生活がおくれます。しかし人工のライフラインは、自然の強大な力の前には無力でした。また経済効率や個人の自由を追求した結果、気付けば私たちの住むまちは人と人の触れ合いのないものになっていました。そんな20世紀型都市文明の脆さを知った被災地は、復興するにあたってはもとの姿ではなく、次の時代のモデルとなる姿を目指すべきでありましょう。

─HAT神戸は復興のシンボル都市ですが、その役割は。

三宮より少し東側の海沿いにあるHAT神戸は、創造的復興の拠点エリアとして、防災や人道支援などについての国際級の機関が集積しています。HAT神戸は、「命の大切さ、生きることのすばらしさ」を実感できる、新しい都市像を発信しなくてはならない。その際、私は「日本の美質」をアピールすべきと考えています。

─「日本の美質」とは何でしょう?

近年、海外でジャパン・アニメやポップス、和食などの日本文化が「クール(かっこいい)ジャパン」と高い評価を得ています。日本人には、繊細な自然観や多様な価値観を受け入れる寛容さ、忍耐強さといった資質が備わっていて、阪神・淡路大震災の時に、人々が助け合う姿は世界中に感動を与えました。表面的に生活が欧米化しても、我々の根っこには日本人のDNAがあるのではないでしょうか。私はそれを日本の美質と呼んでいます。新しい共生社会のしくみを構築する際の、重要なファクターだと思いますね。

─今の若い世代へ、メッセージをお願いします。

私は10代の多感な頃に終戦を迎え、これまでの価値観がひっくり返って、人間何を信じたらいいのか分からなくなり、子供なりに悩みました。理解できない哲学書などを読んだりもしましたよ。役人になったのも、人を助ける仕事なら、時代が変わっても価値が変わらないと思ったからです。被災地の皆さんは、あの体験から学んで、大切なことは何なのかをよく考えて、進路を決めてください。

とみさわ かよの

神戸市出身・在住。剪画作家。石田良介日本剪画協会会長に師事。
神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。
日本剪画協会会員・認定講師。神戸芸術文化会議会員。


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目次 2010年11月号