デザイン都市神戸の魅力

神戸市統括監・神戸芸術工科大学学長 齊木 崇人さん

 

―ユネスコによるデザイン都市認定では、神戸の何が評価されたのでしょうか。
齊木 「まち」「くらし」「ものづくり」の3つの分野で幅広く取り組んでいることが、評価されたのだと思います。

 

―同じく認定を受けている名古屋との違いは?
齊木 神戸は特に、西洋文化をいち早く取り入れたライフスタイルや、ものづくりをリードしてきた歴史的背景、そして六甲山や海・田園などの豊かな自然環境に加え、まちづくりに旧居留地などの歴史的資源を活かしたアーバンデザインの手法を幅広く進めていること、さらには阪神・淡路大震災の復興に力を合わせて取り組んだことが高く評価されたのではないでしょうか。今後は、市民の方にとって身近な課題を取り上げ、デザインの力でくらしや環境をより良くしていく活動を推進することで、神戸ならではの展開をしていきたいと考えています。

 

―神戸市の統括監に就任されましたが、その役割りは?
齊木 矢田市長からは、「様々な部局や魅力的なもののつなぎ役」と要望されました。神戸の多様な環境や、いろいろな国の人との出会いの場をどうつないでいくかを工夫して欲しいということでした。

 

―どういうビジョンをお持ちですか。
齊木 開港以来の蓄積をどのように活かして、未来につないでいくかが課題です。神戸の人、空間、環境だけでなく時をつないでいくことが求められています。私自身の任期は4年ですが、蓄積を引き出し、むすび、世界に発信するには、私に続く方による10年くらいのスパンが必要だと思っています。
また、私は教育の現場にいますので、海外の大学や研究者との連携、日本の中での大学間の連携など、行政ではできなかった新しいつながりも求められていると思っています。さらに、神戸の人材をどう育てていくかも課題です。大学だけでなく、市民、小中高生、子どもたちに、どうデザインという手法で生活や環境を豊かにしていく考え方を取り入れていただくか。その一つの場として、旧神戸生糸検査所を、(仮称)デザイン・クリエイティブセンターKOBEとして活用していく計画が進んでいます。

 

―どういう計画ですか。
齊木 単にウォーターフロントにある歴史的建築物を保存するだけではなく、三宮と連携した新たな拠点としてうまく活用して、神戸のデザイン文化を発信する空間を造ろうというものです。この秋には、工事に着手し、24年度内に完成予定です。今年5月から、自由に使っていただいて、デザインをはじめ、アート、メディア、食文化などの幅広い実験的取り組みをはじめています。一つひとつの活動がつながって刺激しあいハイブリッドなものが生み出されていくことが大切です。そして活動を広く紹介して評価していくこと。日本だけでなく、世界基準での位置づけを示すことも大切です。

 

―連携やつなげることは既に始まっていますか。
齊木 関西の大学の連携については「デザイン道場」があります。今年で3年目の取り組みで、プロとして働いているクリエーターたちを集めて新しいチャレンジを展開しています。今後は、世界のデザイン都市がそれぞれに持っているアートやデザイン関連の大学レベルで連携することも必要です。また、神戸商工会議所とともに「デザイン・経営者フォーラム」や、プロダクトデザイナーの喜多俊之さんの指導により新たな製品開発に取り組む「デザイン・ルネッサンス神戸プロジェクト」の活動があります。
 さらにこれから神戸市の各部局が展開する様々なまちづくりや、ものづくりの活動と連携することも考えています。例えば、自転車を共同活用するためのプログラムの国際コンペを企画するのもいいかと思っています。
 また、ウォーターフロントについては、HAT神戸から兵庫運河までをつなげようという考えがありますが、海、道路、土地それぞれを管理する部署が持つ個別の考えのつなぎ役に徹したいと思っています。海沿いの横のラインだけでなく縦にも伸ばし、三宮、六甲山、背後にあるニュータウンや田園を有機的につなぐことも必要だと思います。

 

―最近の若者はあまり外へは出ず、元気がないと言われますが…。
齊木 それは一部の評価だと思います。先日もウォーターフロントに関してのアイデアコンペを行いましたが、都市計画だけでなく社会学や経済学などいろいろな分野を専門にする関西の学生たちが提案してくれました。大変おもしろいものがありました。問題はどうやって彼らのアイデアを活かしていくかです。
 アート・デザイン・メディア系の先生や学生たちは、海外へもどんどん出ていきますから、それに刺激される学生もたくさんいるのだと思います。そのエネルギーをうまく使ったのが、
 「WAT_Kobe2009」です。これは、同じデザイン都市のモントリオール市と神戸市、神戸大学、神戸芸術工科大学などが連携して、神戸の「景観と環境」をテーマに昨年11月に開催した国際ワークショップです。8カ国11大学60名の大学院生と教員が参加し、約2週間かけてグループデイスカッションや共同作業を行った後、素晴らしい提案をしました。

 

―神戸の医療産業都市構想とも連携してますか?
齊木 医療産業都市の中で、可視化装置を有する神戸大学の総合研究拠点が建設中ですが、芸工大ではCG、アニメーションの表現技術や実物をつくる造形技術を持っていますので、仮想したものを実際のものに作り上げることを支援できると思います。例えば、人間の身体の構造を画像モニター上の3Dでつくるだけでなく、実体化した形にして見えるものにしようというものです。もう一つは、今の世の中に存在しないような対象物や空間、環境を作り上げようという「5D」の世界です。先端医療が進むと、薬の開発や実験などで役立つものです。

 

―さて、一級建築士、工学博士でもある齊木先生ですが、昔からデザインにも関心が高かったのですか。
齊木 子どもの頃から、ものを作ることが好きで、ものの形、特に植物の形に興味を持っていました。今でも自然や空間の形には興味があり、常に観察し、スケッチして何かを生み出すことに活用したいと思っています。

 

―興味をお持ちの「聚文化」とは?
齊木 紀元前の前漢の時代に「史記」・「五帝本紀」をあらわした司馬遷の詩に「一年而所レ居成レ聚、二年成レ邑、三年成レ都」とあります。このまちがつくられるプロセスに刺激を受けました。また「聚」には単に物を集めるという以外に、情報や人々の意識を集めるという意味があります。歴史が繰り返され蓄積されると文化ができます。私自身が学生の頃に出会ったことばですが、今は学生たちにも教えています。

 

―デザイン都市として今後の方針と課題についてお話ください。
齊木 神戸には魅力的なものが散らばっていますが、つなぎ役が必要です。神戸商工会議所でロック・フィールドの岩田さんやフェリシモの矢崎さんが、デザイナー・アーティスト・クリエイターや企業・市民をつなげる役割りを果たされています。私は、これらの活動をさらに支援し、企業、大学、行政、コミュニティーとのつながりを展開し、内部だけでなく全く異質な出会いの場をチャンスに取り入れてつないでいきたいと思っています。
 そのためのはじめの課題は、神戸市の各区や部局がすでに進めている優れたプロジェクトを横に連携できる仕組みをどのように作るかです。
 次に市民や企業の人材との連携が必須です。特に市民や企業内の素晴らしい専門的能力を持つ人材と連携してアイデアをどう引き出していくかです。そしてその成果の発信です。「(仮称)デザイン・クリエイティブセンターKOBE」では、そのプロセスと成果を常に日本各地、アジア、そして世界へ発信します。
 自分たちの活動をオープンにして発信し、世界のデザイン都市がお互いに鏡になって協力し合い、生活を豊かに、そして地域社会の未来への引き継がれる美しい環境づくりをめざすことが、「デザイン都市・神戸」としての役割りではないでしょうか。

 

デザイン・クリエイティブセンターKOBE(仮称)として計画が進む旧神戸生系検査所

デザイン・クリエイティブセンターKOBE(仮称)として計画が進む旧神戸生系検査所

 

齊木統括監の後ろには、国際ワークショップ「WAT_Kobe2009」 にて学生達が提案した作品が並ぶ

齊木統括監の後ろには、国際ワークショップ「WAT_Kobe2009」
にて学生達が提案した作品が並ぶ

 

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齊木 崇人(さいき たかひと)

神戸市統括監
 広島県生まれ。筑波大学専任講師、スイス連邦工科大学客員研究員などを経て、1990年に神戸芸術工科大学助教授、2008年より同大学学長。2010年1月に神戸市統括監に就任。専門分野は、環境デザイン、都市・田園計画、建築デザインであり、主な研究テーマは、「神戸学園南地区における新田園都市構想に着目した住民参加型まちづくりの実験」など


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目次 2010年11月号