
安全と安心 地域に根ざした活動を
阪神間レトロ・モダン物語
生活協同組合コープこうべ 常務理事 秦正雄さん
―コープこうべの現在の組合員数や阪神間で組合員の加入率が高いのはどの地域ですか。
秦 2010年7月1日現在、組合員数約142万人、兵庫県の対人口比率(組織率)では61.5%となっています。県下の全世帯の半数以上の人にご加入いただいているといことになります。
中でも、芦屋市、宝塚市、西宮 市、神戸市東灘区・北区では70%から80%超の組織率に達しています。
―コープこうべといえば、食の安全と安心ですが、商品検査センターではどんな検査をしているのですか。
秦 主にコープこうべで取り扱っている商品の検査をしています。残留農薬、食品添加物、動物用医薬品、栄養成分、微生物などの検査や官能検査、繊維製品、家庭用品検査など衣食住全分野にわたり、表示どおりの仕様で作られているか、コープこうべの基準を満たしているかなどの検査も行っています。
―賀川豊彦の指導で誕生して90年。商品供給はもちろんですが、基本になる助け合いの精神は今も受け継がれている?
秦 1984年にスタートした「コープくらしの助け合いの会」という有償のボランティア活動があります。社会は物質的には豊かになりましたが、人の付き合いや地域コミュニティーが希薄になりました。昔なら地域の皆が助け合っていたこともできにくくなっています。そこで、組合員同士が助け合おうという主旨で生まれたのが「コープくらしの助け合いの会」です。
掃除や買物、食事の準備、庭の手入れ、ごみ出し、子育てなどをお手伝いしています。2000年から介護保険制度導入で社会的しくみが変わりましたが、高齢者へも、単に助け合いだけでなくコミュニケーションを通して、人としての尊厳を守られるような進め方をしています。賀川豊彦の精神と、時代が求める心の豊かさを仕組みとして作ってきたことの象徴的な一例だと思います。また、ボランティア組織「コープふれあい食事の会」では月1回、店舗の集会室で食事をしながら組合員さん同士がコミュニケーションをとっています。
―コープこうべと、一般のスーパーや宅配業者との大きな違いは?
秦 地域生協として商品を通して組合員の生活を豊かにしているだけでなく、店舗の職員や宅配の担当職員が「お元気ですか」など声をかけたり会話をすることに意味があります。超高齢化が進むなか、特に今年のような猛暑の夏には「ピンポーン」と鳴らしても返事がなく、組合員さんが家の中で倒れているといったケースもありました。毎年、半期に一度、職員の善行表彰をしていますが、ほとんどが適切な救命対応を行ったというものです。毎週決まった担当者(地域担当)が、決まった時間に訪問するという点が、留守なら持ち帰る一般の宅配業者とは違うところです。商品の安全・安心だけでなく、暮らし全般を守っているのが生協です。
―最近は宅配事業に力を入れていますが、どういう意図ですか。
秦 宅配事業は、直接、組合員さんと接点を持てることが強みだと思います。配達は、協同購入と個人宅配の2種類あります。インターネットでの注文もでき、多くの組合員さんにご支持いただていています。以前は取り扱い商品が食品や住居関連商品中心で、店舗の補完的なものでしたが、現在は、生鮮や惣菜なども強化し、生活全てを宅配だけでまかなえるようになっています。
―加入組合員で成り立っている生協だからこその宅配の利点は?
秦 創立当初からの「御用聞き」の信頼がベースにあります。引っ越してきた人に「ご一緒にどうですか」、赤ちゃんを連れている人や近所付き合いのない人に「便利ですよ」など、組合員の呼びかけで宅配事業が伸びてきました。また、コープこうべの厳しい基準に基づく安全・安心な商品をお届けしていることも大きな利点です。
―組合員さんの声はどのように反映していますか。
秦 組合員さんの声は生協のいのちです。ご意見やお問合せの専用窓口としては「コープベル」があり、年中無休で承っています。宅配事業では、毎週一回、商品カタログ「めーむ」に設けている「ひとことメッセージ」で声を聞いたり、組合員さん自身にも紙面に登場してただくこともあります。
昨年5月に新たに「めーむ問い合わせセンター」を開設し、宅配利用約37万人の組合員さんからの商品や配達についてのお問合せを集中して承っています。店舗では、「わたしの声」コーナーを設けており、全件に回答をしています。
さらに、組合員同士の横のつながりを強めようというのが「めーむでおしゃべりタイム」です。協同購入や子育てグループ、サークルなどに、新しいコープ商品を提供させていただき、食べながらコープのこと、地域のこと、子育てのことなどをおしゃべりします。私どもも商品の美味しい料理法や保存法など、暮らしのアイデアをいっぱいいただいています。
―一般の人から見ればコープは「組合員さんだけのもの」というイメージがありますが…。
秦 地域の半数以上の方がコープこうべに加入されている現在、組合員さんだけではなく、社会的役割や使命があると考えています。このことは、生協の「志」の問題でもあります。例えば、環境問題、農業問題、災害時対応、平和問題など、広く県民や市民の皆さんに生協の活動を知っていただき、地域の活動にも参加していこうと心がけています。阪神・淡路大震災では、組合員である無しに関わらず、広く商品を供給しました。また昨年8月の台風9号による佐用町の災害時には、ボランティア応援や、兵庫県や市の社協と連携して募金活動も行いました。約3万枚ものタオルを地域住民の皆さんにお届けもしました。
また、お買い物の際に買い物袋を持参する「マイバッグ運動」にも先導的に取り組み、行政や消費者団体などとも連携し、現在では持参率90%にまで高まっています。
―生協活動は女性のパワーが凄いですね。
秦 やはり子どもを育てている強さだと思います。子どもたちの未来を守り、よい環境を残したいと言う思いや元気に健やかに育って欲しいという願いがあるから力も入るのだと感謝しています。
―プライベートブランド誕生の経緯は?
秦 生協は1840年代、粗悪品や量目不足品がはびこる産業革命下のイギリスで生まれました。良い品を適正な量目、価格を守って販売し、皆で運営しようというものです。コープこうべの前身・灘購買組合では、1924年に醸造工場を設置して味噌、醤油を製造していますし、初代組合長は朝鮮半島から良い米を仕入れていたそうです。自分たちの目で原材料から製造過程までの安全・安心を確かめて、良い品を提供しようとしていたのです。
現在は、六甲アイランドの食品工場でパンや麺類、うどんなど、約500品目もの商品を製造しています。素材を厳選し、味や食感にこだわった商品を、安定した価格で提供しています。
―これからの助け合いの中心になる事業は?
秦 高齢者の暮らしの安心のために、介護事業を拡大していきたいと思っています。1993年にコープこうべが支援して設立した社会福祉法人「協同の苑」が特別養護老人ホームを運営してきました。私どもの事業は訪問介護が中心です。昨年から、空いている組合員さんの家をお借りして「もう一つの我が家」をコンセプトにデイサービス事業を始めました。10人程度の小さな規模で自分の家と同じようにくつろいで介護サービスを受けられる施設です。神戸市北区の百合が丘と明石市の上ノ丸で始め、今後はさらに広げていきたいと思っています。また長年、組合員さんから要望があった配食事業を、来年1月から開始する予定です。
―来年、大阪北生協と合併しますが・・・。
秦 大阪北生協の組合員さんは、「合併しても、私たちの声をキチンと聞いてもらえるのだろうか」という不安はあると思います。コープこうべは現在事業エリアを6つの地区に分けて、地区本部制を取っています。合併後は、新たに「大阪北地区」として、しっかり期待にお応えしてまいります。地域の組合員の代表として活動いただくコープ委員会も、より多くの組合員さんが参加できるよう、改革を進めていきます。
また、大阪北生協とはすでに40年以上にわたり姉妹生協として事業提携しています。正職員も全員がコープこうべからの出向で、既に一体運営をしてきていますので、事業面ではあまり心配はしていません。しかし、組合員組織は全く別です。大阪北生協も60年という歴史ある生協ですので、こちらは3年間程度の猶予期間を持ってゆっくり統合を進めていこうと考えています。
―秦常務理事ご自身が生協で長年、携わってこられた業務は?
秦 宅配事業を担当する地域担当で生協運動を叩き込まれました。その後、店長、組合員の声推進室、地区本部長などを務めてきました。
―どこが一番、印象的でしたか。
秦 やはり、組合員さんと一番近い第一線ですね。私が一番大切にしたいのは目の前の一人ひとりの組合員さんのニーズに応えることです。このことは、更に大きな組織になっても変わらないと思います。
―組合員さんの期待に100%応えるためにコープこうべでは今後、どのような取り組みを考えていますか。
秦 私たちのくらしを取りまくさまざまな不安、例えば食の安全、環境問題、福祉などの不安に対して、いつの時代も生協は、行政や他の企業より半歩、一歩先に取り組んできたと思っています。そういう組合員のくらしに寄り添い、組合員とご一緒に不安を安心に変えてきた歴史があります。そのことを大事に、今後も高齢化や子育ての問題、食料自給や農業問題などについて、事業・活動を通じて取り組んでいきたいと思っています。
―これからも地域のための事業展開をよろしくお願いします。

コープこうべの創立者 賀川豊彦

「利益友楽…」。賀川豊彦の精神は、今もしっかりと継承されている
秦 正雄
生活協同組合コープこうべ常務理事(組合員活動本部本部長兼広報室、協同学苑。生協研究機構担当)。昭和44(1969)年、灘神戸生協入所。1990年組織企画室課長。1993年同統括部長。1994年組合員の声推進統括部長。2005年常務理事就任