神戸市医師会公開講座 くらしと健康 39

QOLを著しく低下させる過活動膀胱
医師の指導のもと適切な治療と自己管理を

―過活動膀胱とはどんな病気ですか。
多田 正常な下部尿路機能は尿を出す「排尿機能」と、ためておく「蓄尿機能」から構成されています。何らかの原因で蓄尿機能が妨げられると、頻尿、尿漏れなど特別な症状が現れます。過活動膀胱とは、これらの症状で診断する症状群です。患者さんにとっては非常に苦痛な症状を伴い、日常生活のさまざまな活動に影響を及ぼすことが分かっています。

―どのように診断しますか。

多田 「過活動膀胱症状質問票」を用い自覚症状に基づいて診断します。昼間の頻尿、夜間の尿意による覚醒回数などで判断しますが、その中でも、抑えられないほど強くて、我慢が困難な尿意が急に起きる「尿意切迫感」が週に1回以上の頻度で起きることが必須とされます。その上で、膀胱結石や膀胱腫瘍などの病気が原因になっていないかを判断してから過活動膀胱と診断します。

―原因は何ですか。

多田 神経因性と非神経因性の2つに大別されます。前者は脳血管障害や脊髄損傷などによって、下部尿路の支配神経が障害されたときに起きます。後者は臨床的に明らかな神経障害がない場合で、全体の約8割を占めます。前立腺肥大症による下部尿路閉塞、女性では骨盤底の障害によるものがありますが、最も多いのは原因を特定できない特発性のものです。

―治療はどのように行いますか。

多田 主に、抗コリン薬による治療を行います。膀胱では、尿を抑えようとする交感神経と尿を出そうとする副交感神経がバランスよく働いています。副交感神経が刺激されると神経伝達物質であるアセチルコリンが働き、膀胱が敏感になり尿を出そうとします。このアセチルコリンを抑えようとするのが抗コリン薬です。この薬には、便秘や口が渇くなどの副作用があります。また、排尿困難で残尿が増えることがありますから、定期的に残尿測定の必要があります。加齢による膀胱収縮力低下や糖尿病による末梢神経障害、男性の前立腺肥大症などで尿が出にくくなります。場合によっては、敏感過ぎる膀胱の作用を押さえる抗コリン薬での治療と並行して、尿排出路の緊張をとって広げる薬の併用治療も必要です。

―症状改善のためにできることを教えてください。

多田 自分で排尿をコントロールする力を付ける膀胱訓練があります。尿意を我慢するのは辛いものですが、少し訓練をすれば膀胱が拡張して容量が多くなり、排尿回数が減っていくことがあります。ただし最初に1回排尿量や1日排尿回数など自分の排尿状態をチェックしておく必要があります。例えば、1回の排尿量の目安は200~300㎖といわれますが、我慢すれば500㎖もためられるという人もいます。この場合は、我慢し過ぎると膀胱や腎臓のために良くありません。また、膀胱訓練は尿路感染症や前立腺肥大症などの場合は症状を悪化させることがありますから、専門医の指導を受け医師の指導に従って行うことが大切です。さらに、女性に多い腹圧性尿失禁は骨盤底筋訓練で改善できることがあります。最近では、過活動膀胱のために生じる失禁にも有効な方法だといわれています。腹圧性尿失禁は膀胱を支える骨盤底筋が出産、分娩によって緩み、膀胱が下がり尿道が幾分開いて起きるものです。膀胱に尿がたまってくると、咳や運動で腹圧が上昇すると失禁してしまいます。自らの意思で骨盤底筋の収縮を行う訓練が効果的です。正しい筋肉の動きを覚え、規則正しく継続することが大切です。

―治療は絶対に必要なのでしょうか。

多田 過活動膀胱は年齢を重ねるにつれ誰にでも起きうる症状です。放置しておくと重篤な病気につながったり、死に至るというものではありませんが、仕事や社会活動、対人関係にまで影響を及ぼしかねません。専門医に相談して指導のもと、適切な治療と正しい自己管理で是非、生活の質・QOLを高めていただきたいと思います。

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多田 安温 先生

神戸市医師会理事
多田クリニック院長


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目次 2010年10月号