
ヨーロッパの美味しさを伝えたい
阪神間レトロ・モダン物語
―エーデルワイスミュージアムの来館者の反応はいかがですか。
比屋根 おかげさまで好評です。この夏は夏休みの自由課題で来られる親子づれも多かったですね。ミュージアムだけではなくて、ここで親子お菓子づくり教室も開催したり、それも大変人気があります。
―コレクションを専門の方が見るとまた視点も違うのでしょうね。
比屋根 つい最近も名古屋から来られ、「ここを一歩も出たくない」という方もいらっしゃいました(笑)。東京の有名な会社のオーナーも、一日中おられました。ご自分がヨーロッパで修行中にこのような型でお菓子を作ってたそうで、当時の先輩の顔が浮かび、匂いまでしてきたそうです。道具が話しかけてくるようだと。製菓学校の先生の来訪も多くなってきましたね。約5千点のコレクションのほかに650冊の蔵書もあります。この本がまた貴重ですね。
―全国的にも貴重ですよね。
比屋根 全国的というより、世界的に貴重ですね。専門家によれば、ロンドンにある世界唯一のお菓子の美術館の3倍くらいの規模だそうです。実は私が菓子道具をコツコツ集め出したのは、職人たちの手の温もりを感じ、道具と語り合いたいと思ったからです。そして常に本物を忘れず、うちの職人たちにも匂いを感じてほしいと。
―ヨーロッパのお菓子づくりにも流行の波がある?
比屋根 ヨーロッパは自分たちの伝統の味を持っていますし、流行によって半分はそれに合わせても後の半分は伝統を守っていますね。だから本物といえるのかもしれませんね。自信を持っているというのか。お客様も変えろといわないし。そういった信頼関係も必要だと思います。
―技術を守り、向上させることについてはどのような努力を。
比屋根 40年近く毎年2人、海外へ職人を送り出しています。海外に行ってお菓子のことを学ぶだけでなく、向こうの伝統や文化に触れて、現地の空気や人とふれあいながら一人の人間として成長するように教育しています。そんな彼たちがうちの中心として働き、あるいは独立し地域で根を下ろして頑張ってくれています。
―3つのブランド展開について教えてください。
比屋根 わかりやすく言えば「アンテノール」は洋菓子専門、「ヴィタメール」はチョコレート、「ルビアン」はパン専門とはっきり分けていますが、現在、百貨店とコラボして新しい戦略も検討中です。
―ミュージアムは今後、どのように発展させたいですか。
比屋根 これは夢物語でなく、実現可能な夢と思いますが、まだ倉庫に2千点ありまして、これを寝かしておくのは勿体ないので、展示を入れ替えしながら、神戸に観光スポットとなるようなものを作りたいですね。
コレクションを展示するだけでなく、ショップを併設して、そこでワッフルとかクグロフとか昔の型を使って焼いたものを召し上がっていただいたり、神戸土産にしていただいたりできればいいですね。そのお菓子もヨーロッパ伝統の、何百年前のレシピで作ったレトロなお菓子で…そんなオリジナル・ミュージアムショップが実現したときには「エーデルワイス」というブランドを復活しようと思っています。

マリー・アントワネットが使用したと伝えられる
フィンガーボール(フランス 1780年頃)

ナポレオン家紋が入ったチョコレート用ボックス(フランス 1800年頃)
比屋根毅
昭和12(1937)年、日本の最南端・石垣島で生まれる。15歳で単身沖縄本島に渡り、洋菓子店でアルバイトをしながら通信士を目指すが、洋菓子の魅力にとりつかれ、昭和29年、神戸に渡り本格的に洋菓子の修業に入る。国内外の有名洋菓子店で修業を積み、昭和41年、エーデルワイス創業。兵庫県洋菓子協会・会長。日本洋菓子協会連合会・副会長