くにうみ! 島だより ⑦

心たきしめる淡路の香

伝統が今、世界へと香りたつ

全国シェア7割と圧倒的な生産量のみならず、その品質でも高い評価を受けている淡路の香は、淡路市の江井地区を中心とした地場産業として歴史を積み重ねている。技術は今なお進化を遂げ、新しい香りや消臭効果などの高付加価値製品も登場。さらに地域ブランド化をはかり、その実力は世界も認めるところに。淡路であなた好みの香りと出会う楽しみを、そしておみやげに粋な香りをどうぞ。

民衆の生活を救った線香

 島の西海岸を貫くサンセットラインは潮風の香りが漂う爽快な道だが、江井の街に入ると如実に風の香りが変わる。ここはありふれた漁村のようだが、風雅な香り漂い、街がまるで香炉のようだ。
 この街で線香の生産が始まったのは今からちょうど160年前、嘉永3年のこと。江井は昔から天然の良港として知られ、江戸時代は廻船の拠点として淡路随一の賑わいをみせる一方、冬になると強い西風が吹き、多くの人々が出稼ぎに出るなど生活苦を抱えていた。
 そんな中、白羽の矢が立ったのが線香づくり。江井の廻船業者は九州から堺へ線香の原料を運び、逆に堺から製品を運んでいた。ゆえに原料調達や販路確保はたやすいもの。しかも、人々を困らせていた西風が気温の低下を防ぐので線香生産に適した気候であったし、女性の手内職にも適していた。そこで田中辰造という人物が堺で製法を学び、江井に伝え、この地に線香づくりが根付いていった。
 やがて、江井を中心に淡路島で線香生産が盛んになっていく。

「香司」の技で未来へ

 原料の産地ではない。市場も決して近くない。それでも淡路の線香産業が発展したのは、その品質ゆえにある。戦後、大手メーカーや他都市の業者も生産拠点を淡路へ移すようになり、昭和30年代に日本一の産地となる。
 一方で、他の地場産業と同様に海外へ生産拠点を移す動きもみられた。そこで、地場産業を守るべく立ち上がったのが「香司」プロジェクトによるブランド化だ。
 品質の決め手になるのは、何よりも香りの調合にある。「香りは無限に創造できます。ゆえに香司には独創性が求められるのです」と香司の一人、梅薫堂の吉井康人さんが語るように、メーカーごとに香りの個性があるのは香りを司る香司の創意工夫ゆえだ。
 プロジェクトでは島内15メーカーの香司15名の手がけた香を統一ブランドとして販売、アメリカ、フランス、ドイツでも好評を博している。香司ブランドにより各メーカーや地域の活性化へ還元するその手法は注目を浴びている。伝統に傲らず未来を切り拓く香司たち。その情熱は燃え尽きない。

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「香司」の一人、梅薫堂の吉井康人さん

「香司」の一人、梅薫堂の吉井康人さん

沈香(左)や白檀(右)など香木も欠かせない原料

沈香(左)や白檀(右)など香木も欠かせない原料

オートメーション化が進む中、作業は貴重な光景に

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「香司」ブランド製品はパッケージも洗練され海外でも好評

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主原料はタブの木の粉末

主原料はタブの木の粉末

練り合わせた原料を押し出し成型、この後乾燥させる

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目次 2010年10月号