
桂 吉弥の今も青春 【其の七】
桑原征平さんの魅力
桑原征平さんのことをあまり名字で呼ぶ人はいない、皆さんが「しょうへいさん、しょうへいさん」と呼ぶ。「桑原さん」と呼ばれるのをこの数年聞いたことがない。我々落語家は名字というか屋号が何十人と同じなので下の名前で呼ばれる。「吉弥君」とか「ざこばはん」とか「米朝師匠」と。ひょっとしたら征平さんも落語家と思われてるんじゃないだろうか。あのキャリアで「しょうへいちゃん」と呼ばれていたりする。元・関西テレビのアナウンサーで今年六十六歳。私の実の父親と同じ昭和十九年生まれである。ここ数年、私がみっちり濃く仕事をさせていただく先輩方はこの世代が多く、「ちりとてちん」で私の師匠役の渡瀬恒彦さんは同じ十九年生まれ。「ちちんぷいぷい」でお世話になっている角淳一さんは昭和二十年一月一日生まれなので同学年である。
実の父親とはあまり出会ってしゃべる機会も少ないのだけれど、あっちこっちに父親がいてるようでそれぞれに親孝行するつもりで仕事をさせてもらっている。この世代から感じるのは『素敵な軽さ』だ。あまり権威とか経験とかを大仰に語られたことが無い。かといって軽薄でもない、私から見たらものすごいキャリアを積んできている。もう少し偉そうにしたらいいのにそうはしないのだ。人生を突っ走ってきた世代なのかもしれない、流れが速い世の中で夢中で仕事をしてきたのだろう。後ろを振り返るよりも次にまた自分がすることはないかと六十五歳を越えても考えているようなのである。我々には無い『実績を持ったフットワークの軽さ』を感じて、ちょっと悔しい。こうやって悔しがってることを聞いてもおそらく何とも思わない所がなお悔しい。
そんな征平さんと二人でラジオの生放送をやってくださいと言われたのは平成十九年のはじめだった。桑原征平さんと聞いてもただ元気なおじさんというそれだけの印象だった。また大師匠の米朝から関西テレビのワイドショー『ハイ!土曜日です』でのレポーターの話をよく聞いていたので、猛獣と戦ったり、断崖絶壁から飛び込む無茶苦茶なおじさんと二時間以上もラジオなんか放送出来るんやろうかと心配をしていた。
私はラジオが大好きやったし、ラジオレポーターの経験も六年あったし。テレビやってた人にラジオなんかやれるんかいって思ってました。でもそんな気持ちは放送が始まればどこかに飛んでいってしまった。むしろ引っ張ってくれたのは征平さんの方だった、あの素敵な軽さである。しゃべりたいことが次から次へと出てくるのだ、頭でっかちになっていた私はマイクの前でほとんど自分の言葉で話すことが出来ない。ラジオってこういうものだ、ラジオの魅力ってこんなんですよねと考えていただけで、じゃあどうしたらいいのかがちっとも分かっていなかったのだ。
これでもかこれでもかと語られる征平さんの話は自分の言葉で自分の話、面白く無い訳がない。まるで自分の人生のように、がんがん泳いでいく。悔しかったけど面白かった、ファンになった。ラジオってしゃべりたい人がしゃべらないとダメだなと思った。俺のこの魂の叫びを聴いてくれという気持ちがリスナーさんの心を掴むのだ。
あとから聞いた話だが、征平さんはテレビの世界の窮屈さを感じていたらしく、自分の本来の姿をありのままさらけ出させてくれとラジオの仕事を楽しみに待っていたらしい。関西テレビにはラジオ部門が無かったので定年になって念願叶ったというわけだ。テレビで見る限りは楽しそうに見えていたけど、人には聞いてみないと分からない色々な思いが
あるもんだ。
三年を過ぎた『征平・吉弥の土曜も全開!』は土曜日の朝十時から毎週お届けしております。誰よりもラジオでしゃべれる喜びを感じている二人です、是非聞いてみてください。今の私の目標は征平さんに気持ち良くしゃべってもらって、私はうんうんと相槌を打って、でも実は吉弥が一番自分の話してたなあとリスナーさんに思ってもらえる番組にすることです。
桂 吉弥 かつら きちや
昭和46年2月25日生まれ
平成6年11月桂吉朝に入門
平成19年NHK連続テレビ小説「ちりとてちん」
徒然亭草原役で出演
現在のレギュラー番組
NHKテレビ「生活笑百科」土(隔週)
12:15〜12:38
MBSテレビ「ちちんぷいぷい」水曜
14:55〜17:44
ABCラジオ「とびだせ!夕刊探検隊」月曜
19:00〜19:30
ABCラジオ「征平.吉弥の土曜も全開!」土曜
10:00〜12:15
昨年、平成21年度兵庫県芸術奨励賞