音楽的風景 第四話 神戸に街角音楽を、もっと。

文・矢崎和彦

 

ヨーロッパの都市を歩いていると、街のいたるところで、路上音楽家たちがさまざまな音楽を奏でています。それは住む人や訪れる人にプレゼントされる形のない贈り物として、街の文化的魅力を際立たせる演出装置となっています。とりわけ感動したのは神戸とも姉妹都市であるバルセロナの街角音楽事情でした。バルセロナの気候風土や街並みが醸しだす独特の空気感と、そこに流れる音楽や音楽家との関係性が何とも心地良く調和し、街全体があたかも祝祭空間のようになっていたのです。それゆえに鮮烈な印象が残っていましたし、いつかまた訪問滞在したいと想い続けています。昨年末にKOBECCOから音楽のある風景というテーマで原稿執筆を、との依頼を受けたときに真っ先に頭に浮かんだのはバルセロナの街での体験だったのですが、そのことも踏まえて今回は神戸に提言をしてみたいと思います。

 神戸には年間3000万人もの来訪者が訪れていますが、姉妹都市とはいえ路上音楽事情だけを見ると雲泥の差があります。神戸は日本の他都市に比べてきわめて高い文化的魅力のある舞台都市です。人は何を求めて神戸にやってくるのでしょうか。この街に東京や京都を求めてやってくる人はいません。神戸にある神戸らしさを感じ体験するために人は集うのです。だから神戸らしさを磨き続けなければなりません。話を戻しますが、神戸の街のあちこちで、さまざまなジャンルの路上音楽家たちが演奏していたとしたらどうでしょう。私がバルセロナで感じたように神戸に対してより良い印象を持つ人が増えるに違いありません。おそらくは多種多様な制約があって簡単に実現することは出来ないことなのかも知れません。しかしながら、実現不可能な夢物語でもありません。現に三宮の駅前で演奏するワカモノはいますし、元町ミュージックウィークやジャズストリートのように期間を限定したイベントとして開催されているものもあります。演奏したい人、歌いたい人はたくさんいると思います。そんな人やグループに舞台を開放するだけで良いのです。大きな予算や組織は不要です。一定のルールに則って人々は奏で、歌い、舞い、聴くのです。それだけで神戸は、一年を通して朝から晩まで音楽が溢れる素敵な街へと進化を遂げていきます。その気配を目当てに神戸に訪れる人も多くなり、神戸っ子はますますこの街に誇りを持つようになっていきます。
 文化創造都市であり、デザイン都市であり、舞台都市である神戸ならではの街づくり政策なのではと思いますが、如何でしょうか。

バルセロナにて 矢崎和彦撮影

バルセロナにて 矢崎和彦撮影

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矢崎和彦(やざき かずひこ)

株式会社フェリシモ代表取締役社長

1955年7月10日生まれ。1978年、学習院大学経済学部卒業。株式会社ハイセンス(現株式会社フェリシモ)入社。1984年、同社常務取締役マーケティング本部長就任。1985年、同社専務取締役就任。1986年、同社取締役副社長就任。1987年、同社代表取締役社長就任。2005年、神戸大学大学院経営学研究科終了MBA取得。


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