みんなの医療社会学 第三十四回

今後の医療体制について~ 切れ目のない医療体制を

─わが国の医療体制の現状や課題について教えてください。
杉町 わが国の医療体制は危機的な状況にあると言えるでしょう。例えば、救急医療体制では救急車の搬送先が決まらず、たらい回しによる悲惨な報道を目にします。小児・周産期医療では医師不足により、地域によっては十分な医療体制が確保できていません。高齢者医療の場合、いったん入院すると治療が終わっても行き場がなく、社会的入院を続けざるをえない方がたくさんおられます(図1)。これらの問題に共通するのは、病院が機能をうまく果たせていないということです。その原因の一つとして、病床機能の運用に問題が挙げられます。現状の病床区分は昭和23年(1948)に制定された医療法を根拠としており、病院機能が大きく様変わりした今日、法規制の面で対応困難な事象が多くなってきています。厚労省は病院機能を再編することで急性期病床へ医療資源の集中投入をおこない、医療費の抑制を達成しようとしています。
─厚労省は医療体制の改革を検討していますが、その背景は何ですか。
杉町 厚労省は第6次医療計画で介護療養病床を2011年末までに廃止する方針を打ち出し、病床減少分は老健施設や在宅介護への切り替えによりまかなうとしました。しかし、計画の発表当初より、療養病床の削減は5万人以上の医療難民・介護難民を生じさせると指摘され、日本医師会をはじめとするさまざまな団体の反対に遭って頓挫、目標期限を2017年末に延長したという経緯があります。そもそもこの計画には、超高齢社会に向けて逼迫した医療費を抑制しようという狙いがありますが、現場の状況と全く乖離しています。効率的な医療体制を構築することに異論はありませんが、医療費削減を目的としているこれらの施策で医療体制が改善されるとは思えません。
─改革により医療体制はどのように変化するのでしょうか。
杉町 今後の医療計画では、団塊の世代が75歳以上となる2025年に向けて一般病床を細分化し、医療資源の集中的・計画的な投資をおこなうとしています。これにより効率的な病床運用が可能となるかもしれませんが、必要とされる病床機能は地域により異なるという点に注意しなければいけません。すなわち、多くの病院がある都市部では病院の機能が分化しても適切な病院を受診すればよいのですが、地方では一つの病院がさまざまな機能を担っていかなければいけないので、限られた病床を柔軟に運用する必要があります。これについては厚労省も理解を示しており、これまでの方針と異なり病床数に目標数値をかかげず、その地域に応じた対応を認めています。
一方で、在宅医療体制の充実が計画されています。在宅医療は医療だけでなく、介護や福祉などさまざまな職種による連携やサポートが必要になり、現在、その取り組みがはじまっています。厚労省はまた、在宅看取りを推し進めていますが、現状では問題も多いため件数は増加していません。
─切れ目のない医療体制を構築するために何が必要ですか。
杉町 やはり在宅医療の充実が鍵になるでしょう。救急医療や病院機能を維持するためにも病床を効率よく回転させる必要があります。そのためには高齢者の社会的入院を減らすことが必要です。しかし、多くの疾病を抱える高齢者は病状が変化しやすいため、退院にあたっては医療と介護の垣根を越えた連携が重要です。今後は医師も医療だけでなく介護や福祉にも精通し、保健・介護・福祉の専門職と連携しながら地域医療に貢献する事業にも積極的に参加する必要があるでしょう。
─医療体制に関し、兵庫県医師会はどのような取り組みをおこなっていますか。
杉町 超高齢社会において切れ目のない医療体制を確保するためには、医療と介護の両面で医師会の関与が不可欠と考えます。各都市区医師会では県医師会のサポートを受け、在宅医療の推進を目的として在宅医療推進協議会を立ち上げ、保健・介護・福祉の専門職と連携しながら地域医療に貢献する事業に積極的に関与しており、現在、県下16の地域で事業が展開されています。また、各自治体が設置する地域包括センターの運営にも協力しています。

 

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杉町 正光 先生

兵庫県医師会医政研究委員
杉町医院院長


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目次 2013年10月号