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明るい部屋で家族がそろう幸せ― 「ピンクの雨」

大震災を乗り越えた、神戸とその家族を描く『ピンクの雨』

阪神・淡路大震災を主題にした小説『ピンクの雨』は2009年に出版。作者・新野彰子さんは「震災後、10年がたってから、突然記憶の鍵が開いて、フラッシュバックのように湧き上がってきた辛いことを吐き出そうとして、小説を書き始めたように思います」と話す。新野さんは西宮で被災、実家が全壊した。震災直後は生活の建て直しに必死だったが、その後東京に移り住んでから震災の記憶がよみがえったという。自分が東京にいる間に神戸の街はすっかりきれいになっていた。「そのことが嬉しい反面、復興とは元に戻ることではなかったことに気づいて、故郷を失ったような寂しさを感じた」という。そんな気持ちは、小説の主人公の言葉としても描かれている。
物語の主人公は6歳で震災に遭い、母親を失ってイギリスに移住。12年ぶりに帰国し神戸の岡本の大学に通う大学生で、女性なのになぜか男性の姿をしている。美術部の後輩や、神戸弁の先輩…といった人物が登場する。『一撃でやられている家を、シェイクしてシェイクして、こっぱ微塵になるまでやめてくれない(本文より)』といった震災時の描写や、その後の避難所のようす、12年ぶりの神戸に対して自分は『異邦人』と感じる場面など、経験からくる描写は胸に重い。けれどもストーリーは、男装の麗人といった感じの主人公や、彼女(彼)に恋する後輩、主人公を見守る先輩など20代の学生たちによる、神戸を舞台にした恋愛ストーリーで、ドキドキしながら読み進めた。新野さんは、「震災を知らない、若い人たちにも読んでいただきたい。明るい電気の下で、家族がそろって食事ができる。そんな当たり前のような日常が、どんなに幸せなことなのかを、この小説によってお伝えできたらと思います」と話す。「明るい部屋で家族がそろう幸せ」の大切さを最初に教えてくれたのは、戦時中の生活を経験した新野さんの父親。次回作では、昭和6年生まれの父親の少年時代の話、戦時中の阪神間に住む家族の物語を書きたいという。
『ピンクの雨』の印税は、被災した子どもたちのケアを行う児童館「浜風の家」に全額寄付されている。

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新野 彰子(しんの あきこ)

兵庫県西宮市生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業。元甲南女子大学非常勤講師。


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目次 2014年3月号