みんなの医療社会学 第三十九回

社会保障制度改革国民会議とその問題点

─社会保障制度改革国民会議とは何ですか。
西庵 戦後の日本では高度成長に支えられ、いわゆる「低負担・中福祉」を実現してきましたが、バブルが崩壊して小泉内閣のもと改革がおこなわれ「低負担・低福祉」へと舵を切りました。しかし、医療崩壊と言われる状態になったため、福田内閣・麻生内閣で「中負担・中福祉」へと方針転換をはかるべく2008年に福田内閣により社会保障国民会議がおかれました。ここでは医療の機能分化に力をおき、急性期医療を中心に人的・物的資源を投入すること、入院期間短縮、在宅での医療や介護の充実、地域での包括的なケアシステム構築が謳われましたが、負担についてまでは議論されませんでした。その後、民主党政権になり、社会保障と税の一体改革のもと2012年に消費税率アップを前提に社会保障改革推進法が成立、改革に必要な事項を審議するため社会保障制度改革国民会議(以下、国民会議)が設置され、政権交代を経て現在に至っています。国民会議は、消費税による財源確保を前提として、福田内閣の社会保障国民会議の方針を継承した改革の実現を使命としています。
─国民会議の示す社会保障改革はどのような方向性ですか。
西庵 国民会議の示す社会保障制度改革は、「現役世代は雇用、高齢者は社会保障」という高度成長期のモデルから「全世代型」へ転換する「1970年代モデルから21世紀日本モデルへ」、年齢ではなく負担能力に応じて負担する「年齢別から負担能力別へ」、病院での治癒と社会復帰を前提とした医療から病気と共存しながらの医療と介護を地域で支える「病院完結型から地域完結型へ」、入院期間を短くして早期の家庭・社会復帰を目指す「入院から早期に在宅医療・在宅介護へ」、消費税率が上がって税収が増える期間の改革と団塊の世代がすべて75歳になる2025年を念頭においた改革を分けて考える「短期と中長期に分けた制度の改革」の5つを柱としています。国民会議の報告書をもとに法案がまとめられ、昨年、社会保障改革プログラム法が成立しました。
─プログラム法にはどのような問題がありますか。
西庵 まず、自助・共助・公助について、自助努力を促すため健康に対するリスク管理をおこなわなければペナルティを課される可能性があります。また、公的なサービスは減らされ、憲法25条に定められた国家の社会保障責任が狭められているという問題があります。自己負担の増加については社会保障全体には合致しない方向性ですが、財政上ある程度はやむを得ないところもあり、慎重な議論が必要です。70~74歳が2割負担になると受診の抑制につながりかねません。また、紹介状のない大病院の外来受診に定額の自己負担を導入すれば患者のフリーアクセス権が失われ、どんな病気でもかかりつけ医の受診を必要として時間も費用もかかります。負担能力に応じての負担は必要なことではありますが、それほど裕福ではない層の負担も増やしかねず、やがてなし崩し的に全体の負担増になる可能性もあります。そして一番の問題は、管理医療の可能性です。
─なぜ管理医療に結びつくのでしょうか。
西庵 まず、法案にレセプト等のデータの利活用を促進するとあり、そのデータを国が管理し、一律の検査を強いられることがあります。そして、必要な医療であってもデータと合わなければおこなっていけないという治療の制約に結びつき、その方針に従わない医療機関は良くない医療機関と公表されてしまうのです。また、データにより医療行為を費用対効果で評価されれば、必要な医療でも費用がかかるならエビデンスに関わらず保険適用から除外されかねません。さらに、かかりつけ医の普及促進についても、フリーアクセスが制約されるだけでなく、医療機関では登録患者数に基づいて定額が支払われる人頭払い制が導入されるかもしれません。
─そもそも国民会議の前提である消費税増税自体に問題があると思いますが。
西庵 その通りで、安倍内閣は税率10%を明言しておらず、社会保障目的という前提も危うくなっています。しかも仮に税率10%になっても、財政的に持続可能な社会保障制度の構築は困難です。それにも関わらず、中長期的な改革については示されていませんし、ほかにも根本的な問題として、負担能力に応じての負担といっても、実際に個人の所得や資産を正確に把握することは困難ですから、真の弱者を正確に見出すことはできないでしょう。言わば国民会議は、消費税引き上げのための「口実」に過ぎなかったのかもしれません。医師会としても財政面だけを優先させるのではなく、国民皆保険制度の堅持してみなさまが平等に高い医療を受けられるよう、社会保障政策の動向を注視していきます。

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西庵 利彦 先生

兵庫県医師会医政研究委員
にしあんクリニック内科外科院


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