桂 吉弥の今も青春 【其の三十三】

桂吉弥・新作落語「にょろにょろ」

「勘ちゃん」「何?浩兄ちゃん」「大晦日は何してた?」「紅白歌合戦見てたよ」「勘ちゃん、審査員してたんちゃうん」「え?ああ、あっちの勘九郎か」「名前は同じ勘九郎でもえらい違いや、あっちは紅白の審査員で六代目勘九郎、こっちは洋食屋の二代目の勘九郎やけど皿洗いと掃除専門やもんな」「ほっといてえな。僕もこの頃料理作ってるんやで、オムライスはまだやけど」「そらオムライスはにょろにょろの看板メニューやからな、おやっさんも勘ちゃんには任さんわ」「自分で作ってみるんやけど、親父の味にならへんねん」「教えてくれへんの?」「うん、自分で考えてみいって。ええ線までいってるんやけど」「そうか・・・親父を越えなアカンちゅうのは両方の勘九郎の悩みやなあ」
「浩兄ちゃん、あっちの勘ちゃんはタイヘンやったで」「ほんまやなあ、勘三郎さんが亡くなって」「亡くなった日にもむこうの勘ちゃん、仕事しとったやろ」「襲名披露の口上な、テレビで見て俺泣いたわ」「僕な同じ名前やし他人事に思われへんかってん、店の仕込みで玉ねぎ剥いて泣きながら聞いたわ」「・・・それは玉ねぎのせいで泣いたんちゃうの」
「で、何でにょろにょろ?」「は?」「何で店の名前が洋食にょろにょろ?」「さあ、親父に聞いてもオカンに聞いても笑って教えてくれへんねん」「教えたろか」「え、浩兄ちゃん知ってるん」「ヘビや」「へ?」「へ、やのうて、ヘビや巳さんや。おやっさん昭和二十八年巳年生まれ今年還暦、勘ちゃんのオカンも、うちの親父もオカンも皆一緒やがな」「そんな単純な」「有名な話やで、息子の勘ちゃんが知らんとはなあ」「僕にはオムライスだけやなくて、そんなことも教えてくれへん」「へびやから、手も足も出えへんか」「うまいこと言わんでええよ」
「オムライスも教えたろか」「は?」「おやっさんのオムライスの秘密や」「う、うん」「寿司や」「す?」「そう、お酢や。俺にはすぐに教えてくれたけどな、何でこんな旨いんやろって言うたら」「ホンマに?」「勘ちゃんのじいちゃんの代には日の出食堂って何でもおいてる食堂やったやろ、うどんも寿司もお好み焼きもハンバーグもある。ある日酢飯が余ったからそれを使ってまかないでオムライスを作ってみたんやて。これが旨かった、それがきっかけ」「・・・ありがとう!」「勘ちゃん、どこ行くん。体びちょびちょや!服着なアカン!裸で銭湯から出たら警察に捕まるで!」

 

「親父、オムライス食べてみてくれ。ええのが出来たと思う」「どないしたんや血相変えてフライパンふり出して、とりあえず服着いな、ランニングとパンツで寒いやろ・・・うむ」「どやった、旨いか」「どこで聞いたか自分で見つけたんか知らんが、俺の味の再現なら百点や」「やった!」「けど店で出すなら0点や」「な、なんでや」「お前の相手するんは俺か、お前の料理を食べるのは俺だけでええんか、なんでずっとこっちばっかり見とるんや」「親父の味が出せなオムライス作らせてもらわれへんと思って」「俺は味でアカンと言うてたんやない、お前の姿勢を見てたんや。俺のことを気にする暇があったら、お客のスプーンの動きを見とかんかい。」「親父・・・」

 

「どやった勘ちゃん」「浩兄ちゃんありがとう、明日からオムライス作らせてもらえるようになった」「そら良かったなあ、酢が効いたんやろ」「いや味よりも大事なことが分かった、オヤジよりもオサジやねん」「何のこっちゃ」
「店の名前も『洋食にょろにょろ』から『洋食ぴょんぴょん』にするねん」「ぴょんぴょん?ああ分かった、カエルやな。今まではヘビに睨まれたカエルで小さなってたけど、これからは親父をぴょんぴょん飛び越えるちゅう心やな」「いや、僕、卯年生まれやから」

 

20130204001

KATSURA KICHIYA

桂 吉弥 かつら きちや
昭和46年2月25日生まれ
平成6年11月桂吉朝に入門
平成19年NHK連続テレビ小説「ちりとてちん」徒然亭草原役で出演
現在のレギュラー番組
NHKテレビ「生活笑百科」 土曜(隔週) 12:15〜12:38
MBSテレビ「ちちんぷいぷい」 水曜 14:55〜17:44
ABCラジオ「とびだせ!夕刊探検隊」 月曜 19:00〜19:30
ABCラジオ「征平.吉弥の土曜も全開!」 土曜 10:00〜12:15
平成21年度兵庫県芸術奨励賞


ページのトップへ

目次 2013年2月号