感謝と思いやる心で

楠寺 第三十代住職 瑠璃光苑 管理長
千葉 悠晃さん

楠寺(くすのきでら)は開山1329年、正式名称「醫王山 廣嚴寺(こうげんじ)」。ご本尊の薬師瑠璃光如来に因み「瑠璃光苑(るりこうえん)」と名付けられた境内の霊苑は、近畿圏内で初めての個人供養を行う墓所だ。今何故、個人供養墓が必要なのか? 千葉住職にお聞きした。

庭内にある松尾芭蕉の碑

庭内にある松尾芭蕉の碑

―楠寺は楠木正成とも縁が深いのですか。
千葉 楠木正成公の菩提寺です。太平記とは別の歴史の中では、ここで弟・正季と刺し違えて亡くなったと記されています。お墓は後に建てられていますが、この境内には正成公の祠があります。
―ご本尊の薬師瑠璃光如来とは。
千葉 西方におられ極楽浄土を守っておられる阿弥陀如来様に対峙して、東方におられる薬師如来様はいわゆる現世利益です。我々は東から西へ向かって今歩いて行っているのです。そんな皆さんの健康と心の安堵を守っておられます。
―私たちに馴染みがあるのは先祖代々のお墓ですが、個人供養のお墓とは。
千葉 先祖代々のお墓というのは江戸中期以降、檀家制度が形成されてからのものです。それまでは個人供養でした。元々、人は一人ずつ死んでいきます。土葬して土を盛り、角柱を立て、朽ちればそこに石を置く。それがもともとのお墓でした。
―個人供養のお墓を始めようと思われたのはなぜですか。
千葉 今は亡くなる前から個人単位で考える方が多い時代です。独身の方や、ご主人の田舎には馴染みがなく知らないお墓には入りたくないという奥さん方も多いようです。そういった時代の流れで、永代供養がついた個人供養のお墓にしたほうが安堵を得やすいでしょう。生前に建てられる方がほとんどです。何故かといえば、子孫が先祖供養をしにくいだろうと考えているからです。核家族の影響もあり、先祖供養の文化がうまく継承されていません。後々はおざなりにされるのではないかという不安と、息子、特に娘には迷惑をかけたくないという親心もあります。しかし、大きなお墓は費用もかかる。そこで、身の丈に応じた慎ましやかなお墓を用意したいという要望が多いのでしょう。家に仏壇を置かなくても、ここにお参りに来てもらえたらいいわけですからね。
―申し込みは多いですか。
千葉 私たちの想像を遥かに超えています。特に神戸という街は、外から入ってこられた方々が多い。次男、三男で田舎には帰らないが、こちらでお墓を建てる予定もない。納骨堂が受け入れられる土地柄です。しかし、納骨堂は室内だから抵抗があるという方には、お墓の形態を成して、土に帰れて、永代供養が付いているというのは魅力だと思います。また、地の利もいいですから、親族にもお参りに来てもらいやすいというのも良いのでしょうね。
―満杯になるということもありそうですか。
千葉 2880基までご用意できるようにしていますので、まだそれはないと思っています。
―先祖代々のお墓も?
千葉 五輪塔の形をした先祖代々のお墓もあります。ただし、田舎のお墓を閉じて持って来られる場合に限りです。お参りに帰る機会がなくて放ったらかしになっているのが気になる、自分の代で終わるのでという場合もあります。
―宗旨宗派は問わないそうですが、檀家もないのですか。
千葉 基本的には禅宗ですが、お墓に関しては問いません。色々な宗派の方、外国人もおられます。故人に隔てはないですからね。永代供養料を納めていただき、その他の御供養についてはそれぞれにお気持ちがあればということです。
―散骨供養とは。
千葉 ずっとお骨を持っているが経済的理由もあり、お墓を建てたり、永代供養をするわけでもないけれど、やはり土には帰したいという場合です。天国への階段とも言われる十三重の塔の地下にその場所を設けています。お寺の一角に散骨すれば、お参りに来ることもできます。手を合わせる場所があるということは心のよりどころになります。
―楠寺では境内の神戸仏教会館で落語会や風鈴コンサートを開催するなど、地域貢献にも努めておられますね。
千葉 地域貢献というほどのことでもないのですが…、法要とお葬式だけがお寺の役割ではありませんから、何か楽しいことで地域の皆さんに立ち寄っていただきたいと思っています。除夜の鐘には気合いを入れていますよ。昭和初期に造られ、軍に接収されることなく残った鐘楼がせっかくあるのですから、大晦日には鐘をついていただき、年越しそばをふるまっています。地蔵盆も盛大です。境内には珍しい薬師地蔵様がおられますので、子どもたちが健やかに育って欲しいと願い、ご近所の皆さん、檀家さんなどにも快くご協力いただいています。今年はかき氷で子どもたちは大喜びでした。
―これからの楠寺について。
千葉 お寺は元々、街の中心的な役割を持つ施設でした。今は立ち寄りにくい場所になっています。誰でもいつでも気軽に立ち寄れる場所にしたいと思っています。私自身の子どもの頃からの悲願は、戦災で失った本堂再建です。多くの人が集まれる場所として再建したい…、いえ、必ず再建します。皆さんのお知恵をいろいろとお借りすることになるとは思いますが、私生涯の仕事として成し遂げるつもりです。
―芭蕉の句碑もあり春・秋には茶店も出る楠寺、歴史散策のお寺としても地域の皆さんが集まるお寺を作ってください。

戦争をまぬがれた歴史ある鐘

戦争をまぬがれた歴史ある鐘

緑の木々の中にひっそり建つ楠木正成公の祠

緑の木々の中にひっそり建つ楠木正成公の祠

春・秋のお彼岸に開催される「落語会」

春・秋のお彼岸に開催される「落語会」

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楠寺 第三十代住職
瑠璃光苑 管理長
千葉 悠晃(ちば ゆうこう)

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目次 2012年10月号