みんなの医療社会学 第二十一回

公平な健康保険制度は可能か?

─現在の健康保険の種類とその概要について教えてください。
進藤 現在わが国には代表的なものとして6種の医療保険制度があります。職域保険として組合健保、協会けんぽ、共済組合健保などがあり、地域保険として市町村国保、国保組合、後期高齢者医療制度などがあります。それぞれ職業や年齢などで加入する健康保険は異なりますが、国民皆保険が達成されており、これは世界に誇れる公的医療保険制度です。
─それぞれの健康保険間ではどのような差がありますか。
進藤 保険者の数、加入者数、平均年齢、平均所得、医療費、保険料などが異なっています。特に組合健保や市町村国保は同じ制度内に保険者が多数存在し、それぞれが個別に運営を行っています。職域保険は現役世代の加入者が主になります。比較的若年者が多く持病なども少ないグループですので医療費も安くすみ、保険者としては保険料を安く設定しても運営が可能です。特に大手の健保組合はその傾向が強いようです。しかし、地域保険は退職後の高齢者の受け皿としての市町村国保、後期高齢者医療制度を含みます。高齢者の加入割合が多くなり医療費が高額になりますので、保険者は財政的に運営が困難となっています。したがって、市町村国保、後期高齢者医療制度などでは加入者の収入に比べて保険料が高額になる傾向にあります。そのため現在、各制度間で財政調整を行っています。すなわち、若年者の多い職域保険などから高齢者の多い保険制度に、一定のルールを設けて財政支援を行っています。これらが原因で、世代間や保険者間で保険料の負担に対して不公平感が生まれています。高齢者人口は今後も伸び続けますので、医療費が年々増加することは避けられません。
─現在でも医療費は「高い」といわれていますが、現実はどうなのですか。
進藤 日本は高齢化が進んでいながら高度な医療が医療保険で提供されていますが、実は欧米各国と比較すると総医療費は安いのです(図1)。国民の皆さんは逆のイメージを持たれているかもわかりませんが、これは事実です。それでもなぜ「医療費は高い」というイメージがつきまとうかというと、「医療費亡国論」の影響が大きいと思います。1983年に時の厚生省の役人が、「このまま医療費が増大すれば国が滅びる」という考え方を示し、その後も医療費を抑制する政策が続いているのです。ほかにも、現在の我が国の医療保険制度には財源の特徴として、保険料財源が少なく患者負担が多い傾向があります。すなわち、病気になったときの負担が多いのです。これも大きな原因の一つだと思います。
─現在の制度では、保険料は公平ではないのですか。
進藤 保険料は一部の制度を除いて、保険者がおのおの設定しますので一定ではありません。先にも述べたように若年者の多い保険者は保険料を安く設定できます。職域健保は保険料を会社と被用者とで折半しますので、企業側としても保険料を安く設定したほうが経営的に有利なのです。また、市町村国保でも、調査によれば地域によって最大4.8倍という比較的大きな保険料格差が見られます。現在の我が国では、保険料負担は公平とは言えない状況です。
─そのような差をなくし公平にするには、どのような制度が良いのでしょうか。
進藤 保険者の一本化という考え方があります。国民の誰もが同じ制度の医療保険に加入するという考え方です。同じ保険ですから保険料負担も公平になるという理屈です。しかし、この考え方には多くの解決しなければならない問題があります。一番の問題は国民一人一人の正確な所得の把握ができるかということです。これができないと負担も公平にはできません。正確な所得の把握には保険者による所得情報の一括管理が必要となります。これは非常に難しい問題で、所得のみならず個人の医療情報も一括管理される危険性もはらんでいます。また、やり方を間違えれば逆に不公平感が生まれるかもしれません。少なくとも一足飛びに一本化を目指すのは現実的ではありません。兵庫県医師会は現制度の手直し、すなわち、多すぎる保険者の統合・整理、保険者間での保険料負担の公平化、特に安すぎる保険料の見直しとともに、患者負担の低減化などを行えば、現制度の問題点は財政問題を含めある程度解消されると考えています。

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図1 G7諸国における総医療費(対GDP比)と高齢化率の状況【2009年(平成21年)】

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進藤 啓 先生

兵庫県医師会医政研究委員会委員
進藤医院院長


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目次 2012年9月号